想いを込めるとおいしくなるというのは嘘ですわね…「想いを込めて、貴方に…」
だって…いっぱいいっぱいシオンのこと考えて作ったのにおいしくありませんもの
私は、自分の作った黒い物体を味見し泣きそうになります。
どうしてこんなに妙な味なのかしら？
これではとても渡せそうにありませんわ…。
そうですわよね…シオンにチョコレ−トを渡す方はたくさんいますもの。
こんな物渡してもしょうがないですわね。
私がそれをゴミ箱に捨てようと椅子から立ち上がった時、何処からか声が聞こえてきました。
「あれ？姫さまどうしてこのような場所にいらっしゃるのですか〜？」
「アイシュですの？」
「はい〜、そうです。……それにしても何ですか〜？この煙と嫌な匂いは――」
「ちょっと…、チョコレ−トを溶かす、湯せんというのをしてましたの」
「湯せんですかぁ〜。でも湯せんでどうして鍋が焦げるのですか〜？」
アイシュは煙の発生源である鍋を眺めながら、言います。
うっ…アイシュってこういうことに容赦ないですわ。
私、拗ねてしまいます！
「だって…チョコレ−トを火にかけたら焦げてしまいましたの」
「チョコレートは直接火にかけないんですが…。」
「え？そうですの？？」
アイシュがどこか困ったように言うのを聞いた私は、あっけに取られてしまう。
「…はぁ。僕の知ってる限りそんな方法はなかったと思います〜〜」
「そ…、そうですの……」
さきほどよりもちいさな声で、もう一度呟くと、
そんな初歩の場面でつまづいていた自分がいやになり、自己嫌悪に駆られて俯く。
「……………あの〜、もし宜しければ、私がお教えしましょうか〜？」
アイシュが耳に心地良い柔らかなトーンで語り掛けてきた。
その優しい声に惹かれるように顔を起こし、アイシュを眺めながら答える。
「アイシュ、ありがとう。でも、もういいの。
だってこれを見てチョコレ−トだと思って下さる方なんていませんもの
それに…シオンだってこのような物を渡されたら始末に困るでしょうし――――」
「えっとですね〜。
想いは伝えてあげなくては可哀想ですし、チョコレ−トは食べてあげなくては可哀想です〜〜〜」
「…アイシュ」
「それに、姫さまの好きがいっぱい詰まった、チョコレ−トがおいしくないわけありません〜」
「だって…おいしくないですもの」
「これが試作品ですか〜〜〜？」
こくん
「このまま渡しても、姫さまの好きは十分伝わると思いますが〜
どうせなら姫さまの虜になってしまうようなチョコレ−トを、作ってみませんか〜〜？」
「虜に？」
「はいです〜。姫さまの気持ちがあればきっと最高のチョコレ−トが出来ますーーー」
シオンが私の虜になって下さるの？
だったら、私――――！
「やりますわ！料理の腕は…ですけど、シオンへの愛なら溢れるほどありますもの！」
「おぉ〜、姫さま燃えてますね〜〜〜。バックに炎が見えます〜〜」
「当たり前ですわ！あのシオンを落とす為なら何だってしてしまいます！！」
「その意気です〜〜〜。姫さまかっこいい〜〜」
「うふふ（はぁと）」
私達は妙なノリをした会話を数分続けました。
この時は本当に燃えましたわ〜。
だって、シオンって競争率激しいですもの♪
「では、まずどのチョコレ−トを作るかなのですが
私に任せて頂けませんか〜〜〜？後悔はさせません〜」
「媚薬入りチョコレ−トですわね。アイシュに任せますわ！！」
『…どこでそんな言葉を覚えてくるのでしょう？
やはり、シオンさまの近くにいると…（ぶつぶつぶつ）』
「アイシュ、聞こえてましてよ」
「あわわわわ〜〜〜」
「まぁ、今日だけは許して差し上げますわ。今日はアイシュが先生ですものね♪」
「あっ、ありがとうございます〜。――ほっ。
じゃあ始めますね。
材料は先ほど姫さまと話しながら用意しましたので、下準備はばっちりですーー」
「えっ？そうですの？？私、一緒にいましたけど、気付きませんでしたわ」
「あははは〜。僕が動いててもそうは見えないらしいですーー。
そんなことよりこの鍋に熱湯を注いでください〜。鍋の端からたっぷりです〜〜」
「わかりましたわ！！」
私はそういうと、お湯をダバダバと音がするくらい勢い良く注ぎます。
「ひっ、姫さま！！もっとゆっくり。
時間は沢山ありますから落ち着いてしましょうね〜〜〜〜」
アイシュの言葉を聞いて、私はそっと注ぐことにしました。
確かにやけどなどしてしまったら、二度と厨房に入れませんものね。
お兄さまのお説教も聞きたくありませんし――。
「姫さま、そのくらいでもう結構です〜。ちょっと失礼しますねーー」
そういうと、アイシュは竹串を持ち出してチョコレ−トに突き刺しました。
「何をする気ですの？」
「まぁ〜、見てて下さい〜〜」
それが刺した途端倒れるのを満足そうに眺めると、お湯をそろそろと流しに捨て始めました。
「あっ、私がやりますわ」
「駄目です〜。熱湯が姫さまにかかったりしたら困ります〜〜〜〜。
先ほどは気が付かず、もう少しで大やけどさせてしまうところでしたーー。
他のことは手出ししませんので、これだけは私にやらせて下さいね〜」
そういわれると何も言えませんわね。
私はお湯を捨て終わるのを待つことにします。
「姫さま〜、そろそろ次に取り掛かれますよ〜〜〜」
「待ってましたですわっ！…あら？少しだけ残ってるようですけど？？」
「あっ、それは良いのです〜〜。
全く水分が無くなってしまうと、後の作業がやりにくいですから」
「そうですの？」
「はい〜。では、次に行きますねーー。
そこに置いてある卵黄を加えて手早く混ぜて下さい。
チョコレ−トが熱いうちにお願いします〜」
私は言われた通りに混ぜます。
チョコレ−トが柔らかいので混ぜ易いですの。
「姫さま、そのまま手を動かしていて下さいね〜〜。
少々ブランデーを香り付けに加えますので」
「分かりましたわ」
「そうです〜、姫さま手際良くなってきましたね〜」
「アイシュの教え方が良いのですわ。お勉強教えるよりもこちらの方が向いてますわよ？」
「うっ、姫さま…。それはあんまり嬉しくないです〜〜（涙）」
「だって本当のことですもの。
それよりアイシュそろそろ良いのではありませんの？」
「あぁ〜、そうですね。では少し休憩しましょう」
「えっ？私、別に疲れてませんわ」
「そろそろお茶の時間ですし〜、
チョコレ−トの必要ない熱さを取るまでは次に進めないです〜〜。
ですから、こちらの席に座ってお茶でも飲みましょう」
「そういうことでしたら…」
私が席につくと、アイシュがクッキ―と紅茶を持って来て
向かいの席に座ると私に喋り掛けて来ました。
「姫さまは、ロイアルミルクティー、好きでしたよね？
クッキ―もどうぞ召し上がってくださいーー」
「もぐもぐ…。アイシュってやっぱり手際良いですわ。
私、アイシュがこんなことをしてるなど知りませんでした」
「姫さま、一生懸命でしたから〜〜」
「そうだったかしら？」
「えぇ〜。シオンさまは幸せですね〜〜〜」
「確かにシオンの為に作ろうと思いましたけど、今はそれだけではないですの。
だって、お料理って楽しいですわ！！」
「うんうん。きっかけが何であれ、新しいことに興味を持つのは良いことです〜〜」
「ではまた教えて下さいます？」
「それは〜〜〜〜、お勉強の進み具合によりますねーー」
「アイシュのいじわる･･」
「あはは〜。そろそろ再開しましょうか〜〜〜？
祖熱も取れて良い頃だと思います〜〜」
「はいですわ！」
「まずチョコレ−トを１／３ほど、このボ−ルに移し変えて〜〜
それを良く混ぜてから〜、残りチョコレ−トを足していって下さいね〜〜〜」
「こうですの？」
「はい、それで結構です〜〜。全体を均一的に混ぜて下さいね〜」
私が混ぜていますと
後ろで何かを開ける音がした後、ガラガラという音が聞こえてきました。
「アイシュ、何をなさってるの？」
「氷の用意です〜。姫さま、そろそろ混ぜ終わりましたか〜〜？」
「えぇ」
「では、こちらにそれを持って来て下さい」
「持ってきましたわ！」
「ご苦労さまです〜」
アイシュは私の手からボ−ルを受け取り、氷水の張った入れ物の中へ
ボ−ルごと入れ、チョコレ−トをそっと押すように触ります。
「これならいけそうですね〜。
このスプ−ンで形を取って、これに並べて下さい〜〜。
これが終われば、もうほとんど完成です〜。頑張りましたねーーー」
「それは終わってから聞きたいですわ。さっ、やりますわよ〜〜〜！！！」
「後は冷蔵庫で冷やし、ココアをまぶすだけです〜。
明日、渡す直前に取り出してすれば良いと思います。ご苦労さまでした〜〜〜〜」
「アイシュ、ありがとう。私･･今、とっても嬉しいですの！！」
「それは良かったです〜。では明日忘れず取りに来て下さいねーーー」
「もちろんですわ〜！本当にありがとう〜〜！！！」
私はお礼をいうと、自分の部屋へと帰って行きます。
うふふ（はぁと）
明日が楽しみですわ！早く明日にな〜れっ♪♪
終わり
＜ひとみさんのコメント＞
こんな時期外れなものを
受け取って下さりありがとうございました。
映里さんの優しさに感激のひとみです(*^-^*)
ネット復帰お祝いにいただいちゃいました（＾＾） ラッキーーーーーー！！（←正直なやつ）
ディアーナが可愛くって可愛くって(*^ ^*)
恋する乙女のパワー、しかと見せていただきました。
アイシュの先生ぶりも良かったですし。
可愛いお話をありがとうございました！！
櫻井 映里（1999.5.1)