「渡航より戻りて」
(written by Yukko 99/04/24)
仏蘭西から、故郷へ向かう船の中で、思い出すのは、幼い異国の少女の笑顔。
別れの悲しさを隠そうとする姿が意地らしくて、愛しかった。
「あれから、もう３年になるのか……」
潮風に吹かれながら、呟いていた。
きっと、彼女は成長しているだろう。そういう年頃だ。
我知らず、唇に微笑が浮かぶ。
徐々に近づいてくる港の風景。心なしか、風に懐かしい故郷の香りを嗅ぐるような気がした。
そして、俺は、日本の地を踏んだ。――帰って来たのだ。
「やっと、着いたな」
タラップを降りて、故郷の空気を胸いっぱい吸った。
久しぶりの大地、そして、久しぶりの故郷だ。
「大神さん！」
懐かしさに浸っている俺に、聞き覚えのある声が呼びかけた。
出迎えの人たちでごった返す周りを見まわすと、黒髪を高く結った少女が笑顔で大きくてを振っている。
「サクラ君じゃないか？迎えに来てくれたのかい」
思わず驚きの声をあげる。
神宮寺サクラくんだった。この日本の地を守るために、共に戦った帝国華撃団花組の仲間だ。
「はい。花組の皆、待ってます。早く、大帝国劇場に行きましょう」
この３年で、彼女も大人びていたが、にっこりと笑う表情は、別れる前と同じだ。
「そうだね」
サクラくんの言葉に頷く。
そして、彼女と一緒に歩き出そうとした時、銀色の影が視界の端を過った。
「――ん？あれは、レニ？」
「あら、レニは今日、学校に行っているはずじゃ」
俺の呟きにサクラくんはそう言って首を傾げる。だけど、俺が、彼女を見間違うはずはない。
「済まない、サクラくん。荷物、頼むよ」
何となく後を追わないといけないような気がした。
俺はそう言って、返答を待たずに駆け出していた。
「は、はい。――敵わないな。大神さん、レニしか見えてないんじゃないかしら」
目を丸くして、俺の背後でサクラくんがそう溜め息をついた事など、まったく知らないことだった。
「待つんだ、レニ！」
叫んでも、止まってくれる様子はなかった。
やっと会えたのに、どうして逃げるのか？全く俺には訳がわからない。
しかも、長い船旅で鈍っている身体だ。人ごみをぬって走るのはさすがに大変だった。
港の人ごみを抜ける頃、前を走る少女にやっとの事で追いつくことができた。
「どうして逃げるんだい？君も迎えに来てくれたんだろう？」
逃がさまいと腕を掴んだ俺から、レニは顔をそむける。
「……だって、サクラが」
唇を噛んで、そう漏らした言葉に俺は思わず微笑んでしまう。
なるほど、そういうことか。
「彼女は米田支配人に言われて来てくれたんだ。花組の代表として、ね。――今日、学校だったんだろう？抜け出して来てくれたのかい？」
「……うん」
俺の言葉にレニは逃げようとするのを止めて、そうこくりと頷いた。
どうやら、誤解は解けたらしい。
「ありがとう。――ここと仏蘭西じゃ、手紙のやり取りさえままならない。こうやって、レニの顔が見れて嬉しいよ」
「隊長……」
そう言って見上げるレニの頬に手を触れた。
「ずっと、会いたかった。でも、３年は長かった。――背も高くなったし、綺麗になったね」
記憶にあるよりも、彼女は成長していた。――美しく、気高く。
目の前にして、さらに愛しさが募るような気がした。
「ボク……、ボクも隊長に会いたかった！」
俺の姿を映す青い瞳に見る見る涙が盛り上がってきて、レニはそう言って、抱きついてきた。
同じ思いを彼女も抱いてきたのだ。
「これからはずっと一緒だ。もう、寂しい思いはさせないよ」
柔らかな銀の髪を撫で、華奢な身体を俺は強く抱きしめた。
もう俺たちが離れる事はない。
二度と彼女を離さないと俺は心に誓っていた。
＜Ｙｕｋｋｏ様のあとがき＞
映里さま、とっても遅くなりましたが、 5000HITおめでとうございます！！
記念に書かせてくださいといってましたサクラ大戦の創作が できましたので、贈らせていただきます。
……覚えてくれてるといいなぁ、などと思っておりますが、 よろしければ、お受け取り下さいませ。
初のサクラ大戦の創作をしたのですが、 いかがなものでしょうか？？
お気に召せば良いのですが、どうかしら……。
きゃあ〜、Ｙｕｋｋｏさま、素敵な大神×レニなお話をありがとうございます〜（＞＜）
こんな再会だったら、本当にいいのになって思いました！
でも、学校をサボってまで大神さんに会いたかったのね、レニ（＾＾）
レニの性格からすると、学校をサボるなんてもってのほかだと思うんですよ。
愛の力は偉大だわ(笑)
Ｙｕｋｋｏさま、本当にありがとうございました♪
櫻井 映里（1999.4.26)